【林業】続・林業と建築を考える旅③ ~資源ありきの新しい木造の潮流~

【林業】続・林業と建築を考える旅① ~山に木材が無尽蔵にある時代~
【林業】続・林業と建築を考える旅② ~なぜ小規模流通なのか~

さて建築がどう木構造を分担していくべきか

はじめにざっくり言うと、雑誌新建築でも定期的に木造特集が取り上げられているのを見ると分かりますが
現代も木造の新しい可能性を考えている人たちってずっと居て、
さらに製材所をいくつか知ると、製材所ごとに紐づいている建築家も結構いることに気づくんですが
ただその人たちがあまり発展性のない、ある種の沼にハマっているように見える
というのが、僕を始めとしたアトリエ系の設計事務所が正直に思っていることなんじゃないかと思います。

ただ僕に見えている風景は少し違って
最近、アトリエ・ワンとか手塚建築研究所とか、伊東豊雄さんもそうかもしれませんが
上の世代の建築家はちゃんと気づいて木造に取り組み始めていて
そこにはずっと話してきた社会背景があるはずです。

なので、CLTも無垢もLVLも集成材も合板も、一度みんながちゃんと役割分担をはっきりさせて
無垢でできることは無垢でやる、っていうことを大事にした方がいいと思ってます。

無垢材、CLT/集成材に関わらず木造を増やしていこうとする場合、
まず最初には外材(構造材)の国産材への置換えがあります。

正直に言うとこれですら、現状結構ハードルがあって
林業先進国と比較すると緩いJAS規格すら認定の取れない製材所が多い中、
構造材としては決して強くないスギをいかに使えるか


 *ヤング係数の印字された檜材

この辺りの問題も、どの製材所がJAS規格対応で、どこがヤング係数まで計測できる
など製材所の得意不得意を把握・共有していくことで、
今後乗り越え可能であると考えています。

最近では東工大同期の倉林貴彦さんが、3F建て長屋住宅THREE-FAMILY HOUSE多摩産のスギ材を使ったを軒あらわしにして実現していましたが、
これも垂木の住宅と同じ沖倉製材所による供給です。

次が今回の本題で、非木造の木造による置換えです。
下記表はCLTコンペのプレゼンで使わせてもらった図なのですが
非木造の置換えというと、皆中高層を思い浮かべると思うのですが
面積ベースで比較すると、現実は圧倒的に低層の建築が多い

 *稲山正弘氏作成

僕がCLTコンペのプレゼンで言ったのは、
ここの一番多い1-2F建ては無垢材でもできるので置いておきましょう。
無垢材では厳しい大きさの、2-3F建てのギリギリ軒高9m高さ13m以下をCLTでやりましょう。
マーケットは年1000万㎡近くあります。
具体的には2F建て商業3F建て事務所を狙いましょう(そもそも事務所のコンペだったので)
という話をしました。

これは当該の製材会社が12mの長尺CLTをつくれるということにも起因していますが、
木材同士でマーケットをなるべく食い合わないで、得意なところで勝負すべき!
という話をしたかったのです。
まあそういうところで負けたかもしれません(笑)

ちなみに提案したのはブレースウォール構法という命名で、地震力をなるべく軸力で処理できるよう斜めに傾いた通し壁柱による構造でした。>コンペ案

 *CLTオフィスプロトタイプ案 川田知典構造設計と共同設計

いずれにせよ、非木質の木質化というと随分ハードルが高い事のように思えますが
・防火地域では諦めて、22条地域、準防火地域でとの建築する
・軒高9m高さ13m以下とする
・面積区画の不要な1000㎡以内とする
・事務所、商業施設、共同住宅、小学校、図書館などの用途に限定する

など、ハードルを下げたとしても十分に(というかほとんどそこに)市場はあります

垂木の住宅の根底にあったのもそうなのですが
これからの木造を考えていくときに
必要なのは木に無理をさせないということです。

下記はIHAギャラリーでのレクチャーの最後に使った、
ざっくりとしたここ最近の木材活用方法の流れをまとめたシートです。

上から下に行くほど、木に無理をさせないというチャートで、
垂木の住宅は一番ハードルの低い13にいるのですが、
ここはハードルが低いので、広葉樹や手の入ってない森からのこれまで価値のつきにくい材なども含めて、
さまざまな地域で対応可能で、デザイン的にブルーオーシャンだと感じています。

それ以外に盛り上がっているところとしては3の部分。
なるべく汎用性のある住宅用流通材を使って中規模木造をつくる試みで、
無垢材でできることの可能性を広げようとするエリアです。
ここは中大規模木造プレカット技術協会というところが頑張っていて
岩手のオガールプラザとかシザースストラクチャーの池上線の戸越銀座駅など
汎用性のある金物や告示を用いてつくれる中規模木造。

もう一つは在来工法がベースだけど、仕上げも木が表しになる6板倉構法
最近アトリエ・ワンも板倉の家をつくっていますが、ここでも日本板倉建築協会というところが頑張っています。

無垢材活用のジャンルでは、9の縦ログも雑誌を見ていると数年に1度登場しますが、最近では坂茂さんや、網野禎昭さん、はりゅうウッドスタジオさんが取組んでいます。

このように
無垢材でできる構造を増やし、
CLTや集成材でないとできない構造と切り分けつつ、
構造材でない無垢材の新しい使い方を考える

動きは始まっています。

日本の人口減少とオリンピック後の建築需要の低下を考えると
これまでのデザイン先行で資材を持ってくる在り方から
資材ありきでデザインを考える方向にシフトしてもいい時代に突入したと言えると思います。

林業白書を見るとここ数年木材の輸出が増えていますが、
現実にはほとんどが丸太の輸出
原材料国になってしまった後進国化しつつあるこの国の現実があります。

今日本の小さな流通を活かすことで、
自伐型林業をベースとした地方創生とともに
新しい日本の木造文化をもう一度再構築する。

さらに長期的にはそれを大規模流通に乗せて海外に技術ごと輸出していく。
というと夢を見すぎと思うかもしれませんが、

建築のデザインが、僕らがずっと信じてきたように社会に貢献できるとしたら
この道しかないのではと思っています。

ということで、小さな製材所を活用して起こす革命の拡大に
来年もひきつづき力を注ぎたいと思っています。