前回の林業ブログからちょうど一年。
この間、垂木の住宅が木材活用コンクール、JID AWARD 207、ウッドデザイン賞といろいろな賞を頂きましした。
勝手に森と建築家、林業と設計業を結びつけるミッションを背負うことにした僕ですが、
先日はCLTを活用した某木材会社の本社屋のコンペの二次審査でCLT活用の戦略について話し、
その2日後には自伐協の中嶋健造さんと無垢材利用について語るという、
一見すると矛盾して見えるドタバタな12月初旬を過ごしました。
現在も12/20までお茶の水のIHAギャラリーで自伐型林業の話から垂木の住宅に至るまでの展覧会↑が開催中です。
この機会に僕が考えたことを、せっかくなので少し整理しておきます。
まずおさらいとして、林業先進国の木材の予想される成長量から使うべき生産量を決めていく社会の姿こそ、森林の持続可能な姿だという話が前提にあります。
*主要林業国の林業基本指標(「日本林業はよみがえる/梶山恵司」より)
これをベースに考えると、日本の現状は成長量に対する生産量が30%未満というかなりひどい状況。
一方、戦後の高度成長期の伐採後に植林された木は、構造材が取れるくらいに育っており、
今後は大径木化していき、大径木になるほど成長量は大きく(年輪1層分の径が大きくなるので)なっていきます。
現状の量を一度数字にしてみました。
現状50億㎥(~60億㎥)の材が山にあると言われています。
仮に1年の成長量を低く見積もって2%とします。
仮に目標とする生産量/成長量を80%として、住宅1件に20㎥の材を使うとすると、1年で住宅400万件分の使用が必要な計算です。
ちなみに住宅の着工件数は現在年に90万件程度。最盛期でも170万件です。
この現状、人口減少の話を総合すると、生産量が成長量を追い越すことは今後考えにくく、
日本は、かなり長期的なスパンで、山に木材が無尽蔵にある時代に突入したと言えます。
近代以降、人類が初めて体験する状況かもしれません。
一方、別の話として、日本の砂浜がどんどん減少しているという話があります。
日本の昔の写真を見ると、大概の山は禿山になっているのですが
この禿山からの土砂流出が砂浜をつくり、海水浴文化をつくったとも考えられています。
現在この10年で30近い海水浴場が閉鎖されており、
その理由としてダム、防波堤などの護岸の整備とともに、
土砂流出の起きない森林の現状が疑われ始めています。
先日、飯能と秩父の間の狩場坂峠近くを自転車で走っている時に、ふと皆伐の現場を見つけました。
山の尾根から始まる皆伐で、あの一帯の山でも相当高い部分。
万が一皆伐によって土砂崩れが起きたとしても、林道が1本不通になるくらいのところ。
皆伐も場所を選んでいるのだな、という印象でした。
結局のところ、今後の社会に求められているのは、二項対立ではなく
高い解像度による林業施業の実現なのだと思います。
皆伐=CLT,集成材,合板 択伐=無垢材 という図式も実情はさておいて、解像度が低い。
持続可能な林業の在り方としては、主伐がなく、植林を自然更新に任せる長伐期択伐施業に可能性があるのは間違いないですが、
量を使わなければいけない現状においては、択伐=無垢材だけでは厳しい。
*林野庁”木材需給表”から作成
つまり木材の自給率を上げる趣旨では無垢材の出番だけれども、
根本的な木材生産量を増やすには、無垢材以外の方法ももちろん考えないといけないし
そのためには木材全般の解像度を上げる必要があるだろうというのが、
僕がCLTと無垢材のプレゼンを同時につくりながら出した答えです。
林業側は、製材所と山の直流通を無くして、原木市場を機能させる必要があります。
これによって皆伐してもA材もB材も隔てなくB材扱いという現状は避けられるはず。
(ここで委託型林業がボトルネックになるので、自伐型林業が大事になってくるのだと思います。)
ユーザー側は、無垢材でもできることをきちんと把握し、無垢材でできることは無垢材でやる。そして出来る限り、無垢材でもできることを増やしていく。
その上で集成材でしかできないこと、CLTでしかできないことをきちんと切り分けていく。
これが今本当に必要なのではないかというのが僕が今回思ったことです。
建築は具体的にどう分担していくべきなのか。
例によって収まらなかったので次回に続きます。
これまでの林業ブログはこちらから。
【林業】林業と建築を考える旅① 〜何のために木を使うのか〜
【林業】林業と建築を考える旅② ~吉野の森から学ぶこと~
【林業】林業と建築を考える旅③ ~7代前の先代に生かされている町~
【林業】林業と建築を考える旅④ ~製材所から流通を考え直す~
【林業】林業と建築を考える旅⑤ ~マンションリフォームで無垢材を使う~
【林業】林業と建築を考える旅⑥ ~杉材4㎥と現場の格闘~