2023年度八雲賞


今年も4年生の卒業設計講評会“八雲賞“が南大沢キャンパスの国際交流会館で開催されました。学内の講評会とは別に催される本会は、1982年以降40年以上伝統的に続いており、基本的には選ばれた本学OBの建築家や建築設計従事者のみが後輩たちを講評します。インカレの卒業設計イベントなどが増えている中、OBのみが集まって丸一日濃い議論を交わす講評会というのは他大を含めても珍しく、この八雲賞の存在が、少人数教育で縦のつながりが深い都立大の建築設計教育の特色の1つになっています。

私は2016年から6年ほど都立大学の非常勤として学生の設計課題を教える傍ら、この八雲賞の運営に関わらせて頂きました。この間に大学で教えるOBの非常勤講師陣が運営委員となったり、学部3年生が運営のサポートをするなど、運営の体制が整うようになりました。また後任の廣瀬健君(2003年卒)がオンライン配信の手配を整備し、退官された須永修通先生に建築学科OB会のHPを整備して頂いたことなどにより寄付が集まり、運営がスムーズになってきました。

特筆すべきは本会に審査員として参加するOBは、私の知る限りここ十数年以上、皆様ボランティアで参加いただいていることです。これには毎年幅広い知見で司会を勤めてくださる佐々木龍郎さん(1984年卒)のご尽力が大きく、都立大愛に溢れたたくさんの先輩方に支えられ、それを下の世代につないでいくことが年長者の役目だという意識の下、この会が存続してきました。私も本年度は一昨年に非常勤と運営を下りたこともあり、10年ぶりに審査員として参加させていただくこととなりました。以下2023年度の八雲賞の様子をレポートします。

大学の卒業設計というのは、テーマや敷地の与えられていたそれまでの設計課題とも、またクライアントから依頼を受けて設計をする通常の設計業務とも異なり、自分で設計するテーマや敷地を決め、自分の興味や世界観を発信する場です。実務に携わる身としては、現役の学生がどんなことを考えているのか、彼らがどんな未来を見据えているのかを知ることのできる機会でもあります。

本年度は17人の学生が卒業設計に挑みました。残念ながら年々卒業設計を選択する学生は減っています。これに対して審査員は6名。日本大学理工学部准教授の古澤大輔さん(2000年卒)、WAKUWORKSの和久倫也さん(2003年卒)、竹中工務店の越野達也さん(2006年卒)、kadono design NODEの角野渉さん(2007年卒)、東京大学大学院特任助教の笹尾知世さん(2011年卒)と私富永です。

審査は朝10時にスタートし、午前中はポスターセッション形式で模型とプレゼンボードが展示された国際交流会館ラウンジを回って学生に話を聞きながら、一人6票の投票が行われました。

13時からの二次審査は大会議室に場所を移し、4票以上集まった7案に加え、審査員からの強い押しがあった2案を加えた9案が二次審査に進みました。票の入らなかった案に対しても審査員からどう良かったか何が足りなかったか講評がされました。ここまで手厚い審査会は八雲賞ならではだと思います。

学生のプレゼンテーションを含んだ二次審査では審査員から質問が飛び、学生が答えるやりとりの中から、案に対する思考の深さが計られました。9名との3時間近いやり取りの後、八雲賞に選ぶ作品を投票。ここで4人の学生が残りました。

鋸屋根の工場がフリースクールとして使われている建物周りで、ランドスケープや小さな建築を丁寧につくりこみ、子どもの居場所をつくろうとした瀬底実理さん。
鉄道大国日本の廃電車を資源として見出し、大胆に廃電車を建築に転換して川越駅の再編をした永田拓渡さん。
成城のホームセンターがある敷地にビルダーズセンターをつくり消費するだけの社会から生産する社会への転換を図ろうとした本住拓真さん。
ベトナムのホーチミンで住宅を整備しながら、路上市場が寄生する広場をつくった加治木陽菜さん。

はじめは本住さんと加治木さんに2票ずつ入っていましたが、面接形式で議論と学生に対する質問、投票を繰り返した結果、本住さんと瀬底さんに票が割れ、最後は逆転で瀬底さんに4票が集まり2023年度の八雲賞に決定。
奨励賞は本住さんと永田さんに決まりました。議論は白熱し、予定時刻を一時間近くオーバーして19時に閉会。
学科内からも若い伊藤喜彦先生、能作文徳先生が教え子の様子を見守ってくださっていたことも記しておきます。


*八雲賞に輝いた瀬底さんの「あめつちの家」

昔のように大規模な都市開発や大きな建築はほとんどなく、リノベーションも増えましたが、環境問題に資源の再利用や農業と絡んだ計画が多い、一見地味だけれど丁寧に人と建物をつなごうとする提案が多い、というのが今年の印象でした。
環境問題は取り組まなければいけない問題であることは審査員全員が理解しながらも、本当にその興味が自分の中から発せられたものなのか、何かを変えるためには毒も必要なのではないかということが繰り返し問われたのが印象的でした。

その後は去年から再び解禁になった打ち上げで駅前の居酒屋へ。迷える学生たちの労をねぎらいつつ、話に花が咲きました。
学生たちが同じ都立大を卒業して、自分たちが歩んだかもしれないこれからの未来をつくっていくのだと思うと、伝えたくなることもたくさんあり、店を追い出されるまで議論が続きました。
今年も母校愛にあふれた八雲賞審査会でした。これからの学生の未来に期待します。


2024-02-13