【林業】林業と建築を考える旅⑥ ~杉材4㎥と現場の格闘~

【林業】林業と建築を考える旅① 〜何のために木を使うのか〜
【林業】林業と建築を考える旅② ~吉野の森から学ぶこと~
【林業】林業と建築を考える旅③ ~7代前の先代に生かされている町~
【林業】林業と建築を考える旅④ ~製材所から流通を考え直す~
【林業】林業と建築を考える旅⑤ ~マンションリフォームで無垢材を使う~

解体が終わり、設備+電気配線と床組の終わった現場へ、まず全体の半分の木材が運ばれてきました。
現場で採寸が必要な材以外の8割の材はカット済み

一つ目の苦労した点搬入材が全部仕上げ材であること。
当初の搬入予定が台風の影響で雨になってしまい、さすがに雨には濡らしたくないということで予定をズラして搬入しました。

さらに杉は柔らかいのでPPバンドなどで縛ってあると跡が残りやすいという問題もありました。

これに関しては2便の分はラップで巻いてもらうようにする、階段で運ぶ材は4本ごとに巻いてもらうみたいなことを伝えて対応してもらいました。

木の傷は最初は気にしていましたが、最終的には傷部分に水を含んだタオルを当ててスチームアイロンをかけるとほとんど元通りになることが分かっています。

正直トラック1台分すべての長さと本数をリストでチェックするのは結構大変でした。
おそらくどれどれ足りないっていう話になっていろいろあるんだろうと予測していたのですが、1本多かったくらいで全部ちゃんと出してきた沖倉製材所には正直驚きました。

それでも現場でどの材がどこにあるか整理されていないとかなり混乱しました。
今回は大きく分けて3ユニットあったので3便に分けて適切な時期に出してもらうか、当初予定していたように1度工務店の作業所に送って、そこで少し組んだ状態で出してもらうみたいな方法が必要だったかなと思います。


この材に現場でボルト用の穴をあけて、一番下の材を床合板に固定した上で1本ずつ積み上げていきます。
1本積み上げるごとに下の材にビスで縫い付ける方法。なので接着剤はゼロ

大工さんは垂直を出すために木材でガイドをつくり、これに沿って積むようにしていました。こういう大工さんの知恵には感心します。

木の積み方は、強度を出すために角が多くなるような設計にしていましたが、
そういうところでは交互に材が重なるようにしました。

そもそもT字に突きつけにすると、接合しようがなくなるために嵌合させるという趣旨です。
この方法はいろいろな意味で正解だったようで、1回間違えて交互に重ならないように積んだところ、
どうしても木が縮むと突きつけ部分で隙間が目立ってました。交互にしても隙間はあるわけですが、それが縦に通らないとそれほど気にならない
これは目から鱗でした。


作業自体は慣れるとそれほど手間でなく、本棚の部分などはほぼ1日で上まで積みあがっていました

材の取り合いがないので、熟練の大工でなくてもできるのが、この工法のいいところ。(とは言えそれなりに技量が必要ですが)

大工が育たないと嘆いても、この先大工はいないワケですから、大工じゃなくてもつくれるものを目指すことは今後とても大切になるのではと考えています。

積みあがっていくと木の小口が積層されて見えてきます。
今回は普通隠される木の小口(断面部分)をあえて隠さないという選択肢をしました。
積みあがってみるとそれぞれの木の断面に個性があって愛着が湧きます
一応大工さんと相談して、木表と木裏が交互に積みあがるようにしてもらいました。

天板や建具も沖倉製材所にお願いして、同じ杉材を幅はぎで板状にして出してもらいました。大手加工などの手間がない分両面突板のフラッシュとそれほど価格的には変わらず、掘り込み加工もし放題なので、ディテールが省略された感じの面白い表現に。

設計時から現場で変更になった点もありました。

元々はログハウスに倣って、木が痩せた後に最上部でボルトを締め上げられる方法を取っていました。
しかし1本1本ビスで揉んでいるので、ボルトを締めてもそこまで締まらないのではないかという大工さんとの話し合いの結果、ボルトを掘り出すのをやめました。
いざとなれば上から二番目の材の材端部から100mmのところにボルトがいるので、掘り出して締めることは可能としていますが、今後は様子見。

壁を組上げたのち天井を仕上げていきます。壁が天井に少し飲み込まれる関係に。
天井は当初同じ多摩産の杉板を使う予定でしたが、工期短縮とコストダウンのために、西川材の杉の巾はぎ板の5mm厚というのを使用しています。

当初より工期が遅れて、クライアントにホテル暮らしを強いるなど、ご迷惑をおかけしましたが、なんとか無事完成。
最終的な工事費も、某ハウスメーカーが当初出してきた価格とほぼ同額になっています。

少しだけ竣工写真を公開しました。→垂木の住宅

最後に少しだけもう一度林業の話に戻らせてください。

建築関係者には木材っていうと、もっぱら針葉樹しか見えていないワケですが、実は日本の森林の6割は広葉樹でできています。

現状ほとんどになってしまうような広葉樹も、長物の取りにくい広葉樹もこういう構法なら、使える可能性があるんじゃないか
というのはひとつこれからのマーケットを広げる可能性につながるかもしれないと考えています。

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全6回。途中から妙なスイッチが入って(笑)予想以上に長くなりました。

僕が今回の林業と建築の間をめぐる旅を通じて思ったこと。

ものすごくざっくりまとめると、

CLTなどによる木造置換=新たなマーケットの開発は、現状の林業において、山側=資源側のからみたら環境も経済も回らない

・これに対して経済循環ありきではなく、環境や社会の持続性に付加価値がつくような経済にしていく必要がある

林業も建築も需要過多の時代にいてユーザー側の気持ちに立つ努力をしてこなかった分、これからできる部分がかなりある

ということなのだと思います。

そこから先、どうすべきか。
たくさんの人が各々考えて動いていくことで、少しずつ変わっていくんじゃないかと信じています。

50年-100年先のことを考えるやり方にシフトして、環境や社会の持続性に目を向けないといけないんじゃないかということを
吉野の里山に教えられた気がしてます。

という訳で最後まで読んでいただきありがとうございました。

何かモノ申したいということがありましたらこちらまで!

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*参考資料