【旅行】③松江~玉造温泉~出雲~石見銀山


3日目。だいぶ足がつらいです。
この日のノルマは石見銀山までの90kmを並走する電車の誘惑に負けずに走ること。


朝ホテルから宍道湖を眺めるとしじみ漁の様子が見える。
左に見えているのが対岸の島根県立美術館。

まずは松江観光からスタート。
前日に城のシルエットを見て、水辺の多い街を通過した段階で、
松江はいい街だと確信していたが、想像以上。

★島根県庁舎 / 安田臣(建設省) 1959
このベタに日本のモダニズム建築だという以上にそれほど素晴らしさが見出せない建物を改修して使っている点が
松江の素晴らしいところ。
ちなみにこの建物の向かいの島根県民会館も安田臣氏の設計であり
裏に建つ2つの菊竹建築もあわせて、1970年に県庁周辺の整備計画で学会賞を受賞している。


そもそも廃城令が出され、木造天守の取り壊しが相次いだ明治初期に、
それを残そうという選択ができた街にはハズレがない。
大きな黒い入母屋と小さな白い入母屋が不思議な屋根の重なりが松江城らしさをつくっている。

天守内部に入ると木造だろうがRCだろうが、変な展示ケースが並んでひたすら薄暗いというのが
天守建築の悪いプロトタイプだが、松江城も同じ。
照明をアッパーにして木組みを照らせばそれだけで十分だと思うのだけれど。
よく見ると柱はかすがいで束ねられている。

松江城の北側には小泉八雲の旧邸や武家屋敷を始め、古い町並みが残っている。
城のお堀では遊覧船が走っていて、水の街の名残がある。

★田部美術館 / 菊竹清訓 1979
この並びに隠れている名作が菊竹さんの田部美術館である。

前面に庭があり、屋根に対して平入でアプローチする。
樋の処理が菊竹さんらしい。

アルミサッシが高級だった時代なのか、サッシがアルミなのが全体としてはとても残念だけれど
よくよく見るとそんなに高級な素材がない割にはゴージャスさがある。
空間のスケールとスロープがとても効いている。
和風建築にスロープという建築は他に見たことがない。

屋根が展示スペースに入り込むというのも見たことがない。
東光園にも島根県立図書館にも心が躍るけれど、
とてもまとまった気持ちのいい名作。

★島根県立図書館 / 菊竹清訓 1968
この旅で見た7つの菊竹建築の中で個人的に一番好きなバランスを持った建物である。
パッと見どうなっているのか分かりにくい。
雁行平面の中央部に屋根がかかっている。


周辺部はコンクリートの壁とスラブが斜めに取り合う。
徹底してコンクリートの端部には斜めにテーパーがかけられており
最近増築されたと思われる駐輪場にもこの斜めのテーパーが踏襲されている。


雁行平面からはみ出したコンクリートボリュームもテーパー加工でひだひだしていて
菊竹さんのコンクリート表現への執着を感じさせる。
屋根は基本的には雁行平面に対して斜めに大きな切妻がかかっているんだけど
時折跳ね上がってハイサイドライトになっている。

鉄骨の屋根架構は菊竹さんらしい、梁の積み重なるデザイン。
全体性があるのかないのか、掴めそうになるとするすると逃げていく、そんなデザインの集積である。

★島根県立武道館 / 菊竹清訓 1970
駐車場をはさんで向かい側の武道館でこの旅4つ目の菊竹建築。
これもまたどうなっているのかつかめない全体性をもった建物である。

2Fの武道場よりも1Fエントランス周りの方が印象に残った。
格子のスラブにはめ込まれた蛍光灯の照明がキュート。

★島根県立美術館 / 菊竹清訓 1999
宍道湖を対岸に渡った島根県立美術館。
静かな湖と対比的に波打った屋根の建物。
こういう建物は必ずスリット天井になるけれど、とてもいい。
良くも悪くも大変まとまっている。
まとまっていないことをちゃんと人に伝えられるだろうかとふと思う。

あの穴はなんだと対岸から気になっていたけど、展望台。
あまり眺めはよくない。


そこから玉造温泉まで10kmほど走ったところで昼食。
★玉造温泉ゆーゆ / 高松伸
和風の温泉旅館の並ぶ日本最古と言われる温泉地に突如現れるコンクリート建築。
半分丘に埋まっているのだけど、相当むちゃくちゃな建築。
1Fが市場、2Fがどじょうすくいショー、3Fがマッサージ+休憩室で4Fが温泉施設。
入っていないけど、球体の中に露天風呂がある。


大階段をずっと上がっていくが上がりきったところには何もなくて、
少し降りた4Fから建物に入ってみると
球体が挟まっていて温泉施設の入口になっている。
幾何学を体感しながら建物を進んでいく感じが楽しい。

2Fから1Fはトップライトのある吹き抜けを緩やかな階段で下りる三角形の大空間。
どじょうすくいショーの入口を横目に、野菜を売っているところに降りていく。なんなんだこの体験。
相当カッコいいぞ。
ユニークであることは愛される上でとても大事なんだなあとしみじみ思う。

★ビッグハート出雲 / C+A 1999
出雲まで30km走って出雲市駅前のビッグハート出雲へ。
立体的なボリュームの操作がアクティビティにそのまま直結する、世代的にストライクな名作である。
駅と反対側の立面。こちらから見るとあまり浮いていない。

建物1F内部。丘状の駅前広場がそのまま室内に入り込んでいる。
タイミングが悪く全く使われていなかったが、
ホワイエやエントランスみたいな過剰になりがちな建築の余白部分が、ストリートの延長として感じられてとてもたのしい。

こっそり潜入した白のホール。
オランダ建築全盛時を懐かしく思う。

地面との取り合いが面白い建物周辺の足元まわり。

残り50km近くあるので蔵を改修したカフェで糖分補給。
頑張って走るか電車に乗るか話している間に電車を逃して自走決定。

★出雲市庁舎 / 日建設計 2011
先を急がなきゃと思った矢先に出雲市庁舎に捕まる。
松江を見てきたので市庁舎立て替えちゃうんだ出雲市?と思うが、なかなか素晴らしい建物である。
市庁舎らしい佇まいと機能性と和の意匠がうまく統合されている。

平面的には中庭構成。
3Fがメインの中庭で、部分的に2Fに庭が落ち込んでいるのが1Fの吹抜けから見れる。
写真は2F。


海沿いを走り、中間地点で休憩。もうひたすら疲労と宿につく時間とのせめぎあい。
大田市に入ったところから少しだけ山を登って石見銀山まで残り12km


18時ギリギリに石見銀山に到着。
なんとか3日間一度も宿に遅れますの電話をかけずに済む。


町のお店は17時でほとんど閉まってるんだけど、運良くディナー客のいたカフェに滑り込んでビール。
当たり前に古い建物が使われている感じが心地よい。
明日で最終日。

4日目につづく


2015-04-30