首都大卒業設計八雲賞審査2014

首都大卒業設計八雲賞審査会に審査員として参加するため雪の残る南大沢へ行ってきました。
OBが丸一日かけて学生の卒業設計を題材に激論を交わすという非常に母校愛にあふれた会ですが、今年も白熱しました。
去年は半分外野からの野次だったので、ちゃんとした審査員は今回が初めて。自分の原点がどういう場所なのか振り返れるのはとても有難い機会です。

今年は全体的にレベルは高く、議論になるテーマを抱えているものが多いと感じました。作家性から切り離されても成立する建築家像を感じさせる提案もいくつかあって、個人的にも首都大建築の可能性を改めて感じた気がします。
一方で自分の提案を客観的に省みることができているものがなかったのと、空間をちゃんとイメージできているものは、相変わらずほとんどないという印象でした。去年より更にバラックとかカオス的な状況を設計したいというものが増えた気がしますが、それが不快さに直結しているものには、建築教育そのものを否定してしまうような恐怖を感じ、評価しませんでした。

以下最終選考に残った8選について番号順に。写真は右記から拝借しました。twitter首都大学東京卒業設計展2014


竹本さん「逃げ=導き@商業施設」
これをちゃんと建築にする設計力は評価したいと思いますが、実際起こるか分からない危機を相手にする時に、避難動線にいかに日常的な付加価値が作れるかが焦点だったと思う。ましてや最近有り得るテーマを題材にするときは尚更、どこに自分ならではの提案の新しさがあるか明確にすべきだったかと思います。


宮尾さん「終わらぬ宴」奨励賞
東京都内唯一の酒造をテーマパーク化する提案。分棟配置の建物群が酒蔵のコピペであることに対して、それでも評価ができる時代になったというのが審査員としても発見的でした。ありそうで見たことない風景をもっと評価したかったが、そのためにはデザインしたレイアウトによって徹底的に楽しそうに使われているという画を書くべきでした。


藤原さん「だんだん」
岡山につくる移住希望者のための短期滞在用集合住宅。プログラムと共に、尾道の階段の中に住居があるようなアノニマスな体験が円環という非常に形式性の強いカタチに計画されているというマッチングの中にスタディの可能性を感じました。この図式があくまで発端で、最終的には形式性が負けてカタチがバラされたような状態になっていたらもっと評価されたのではないかと思います。


青木くん「限りなく残像に近いたたずまい」八雲賞
銀座のペンシルビルが再現されうるような再開発の提案。ファサードのデザインを各ブランドに投げても成立しうる計画の提案として本賞に相応しいと思います。ただ出来上がった風景が既視感だけでなく、それを超えてパッと見て分かるデザインの新しさ+それにより生まれる楽しさを持っていないと、最終的にはペンシルビルの林立に帰結していってしまうような危険性を孕んでいた点については評価しませんでした。


水谷くん「New world trade center」
唯一ノスタルジーを分かりやすく乗り越えようという画を提案していたことを評価しました。リアリティの追求ではなく、今後こうした超巨大なジャングルジム的構造体に、どういうスケルトンの可変を加えておくと、その後いろいろな用途に使えそうだというスタディとして提案すべきだったと思います。


川畑さん「日常を辿る結婚式」
渋谷代官山間の廃線になった高架を結婚式場に改変する提案。結果として建築がものすごく力を持ちうる、敷地とプログラムの選定が抜群でした。だからこそ、結婚式場が都市の裏側という囲まれた場所にフィットしつつ、裏側をキラキラにしてしまうことに対して、自覚的になってもっと積極的にデザインをしないといけなかったと思います。


紺世さん「スラムにできた小さな工場」奨励賞
スラムにムラを持ち込んで近代化する手法の提案。インフラを持たないスケルトンという部分が、メタボリズムを超えて非常に冒険的な設定だったわけですが、それによってどういう配置計画、隣棟間隔になるのか、もっとデザインによって生まれる使われ方や空間の快適さがたくさんあったはずです。


冨永くん「B-side Story」
街の3-4Fの屋上に空中回廊を回すことで、その上階に価値が再発見されるというストーリーはとても面白い。ただ実際には大掛かりな操作なので、回廊と既存の街/プログラムとの貫入関係のプロトタイプ的に示すか、圧倒的に賑わいの生まれた画を書いてやり切るかすべきだったと思います。

卒業設計を見るときは、最初の設定の善し悪しは運やセンスで決まってしまうので、いつも自分がつくった設定をどれだけ掘り下げられたか、そこにどれくらい葛藤があって、それを楽しめたかどうかを見ることで、この人なら設計を続けていくにあたって背中を押してあげてもいいか、判断することにしています。
なんて偉そうに言ったところで、もし学生の時の自分を講評することになったら、おそらくボロクソに言うハメになるのだと思いますが(笑)。

講評するこちらも緊張感のある楽しい一日でした。
学生の皆さんお疲れ様でした。


2014-02-12