八雲賞講評会 2022

本年度も都立大OBによる卒業設計審査会八雲賞が開催されました。
 

本年度の審査員は下記6名です。
〇吉里 裕也(1996年卒) SPEAC代表。「東京R不動産」代表 ディレクター。  
〇品川 雅俊(2005年卒) 株式会社ASパートナー *
〇梁井 理恵(2007年卒) 株式会社オンデザインパートナーズ/アヤトリデザイン*
〇畑江 未央(2008年卒) 株式会社日本設計 主管
〇浜田 晶則(2010年卒) 株式会社浜田晶則建築設計事務所
〇岡  佑亮(2012年卒) chidori studio(新人枠)

*印は去年に引き続き2年目の審査員(新人枠以外は2年持回りとしています)

審査委員は運営委員の方で毎年選んでいますが、本年度は、特に建築の企画が重要になっている昨今の背景や、設計に対する多様な働き方を考慮し、若手を中心に選定しています。

浜田さんのような従来的なアカデミックでインディペンドな建築家枠もいれば、企画分野の吉里さん、大手アトリエでパートナーを務める品川さん、自分の事務所とオンデザインの二足の草鞋で働く梁井さん、組織設計で子育てをしながら働く畑江さん、独立新人枠の岡さんといった、多様かつ、5名が2005年以降の卒業と身近に感じられる人材をあつめました。
また、去年に引き続き事前に評価基準を明確にしてもらってそれに基づいて審査をしてもらうという方法を取っています。これは学生にとって、各自と審査員の関係を言語化によって客観視してもらうためです。

審査基準は下記の通り。
吉里 裕也 / 社会的価値にインパクトをあたえる革新性と多様な関係性を集約する広義のデザイン力
品川 雅俊 / 状況を観察しそこに何かを想像する、その解像度 
梁井 理恵 / 問題提起が明確にされていて、社会や都市にポジティブな影響を与える作品
畑江 未央 / 社会性のある課題設定と形態への昇華
浜田 晶則 / 形がもつ必然性とそれが生むパフォーマンス
岡  佑亮 / 動機から内発する提案の独自性と、それが示す建築の拡がり

本年度も4年生と運営の3年、審査員と運営委員のみが対面で、Zoomでのオンラインを併用したシステムで行いました。Zoomで配信すると同時にConceptboardでプレゼンボードを閲覧可能なようにするシステムを採用しました。

午前中の22案(臼井さんが欠席)のポスターセッションを経て各審査員が7票を投票し、3票以上が集まった7案と、2票集まった中から、特に審査員が推薦したい3案を交えた計10案から二次審査を行いました。

プレゼン、講評ののちに審査員6名による1票ずつの八雲賞の投票を行い、議論の末に八雲賞を決定、そののち奨励賞2名を選ぶ2票ずつの投票と議論ののち、奨励賞2名を決定しました。また、各審査員から総評を頂くと共に審査員賞を個人的に発表してもらいました。
本賞、奨励賞、個人賞は下記の通りです。

八雲賞 竹居英人
奨励賞 井上将吾 近藤慧太

吉里賞 高吉海斗
品川賞 砂村三奈
梁井賞 由利一樹
畑江賞 神山祥太
浜田賞 岡田竜真
岡 賞 岡本晋作

全体的な個人的な感想として、岡田案や、近藤案のような、空間体験と感情や記憶といった曖昧なものをどのように結び付けられるかといったトライアルがいくつか見られて、興味深いと思いました。こういう場合アウトプットとして模型じゃなくてVRや映像などに力を入れることで、より新しい表現にたどり着ける可能性を感じました。

もうひとつは、高吉案、神山案のように、設計者がまちの一部として介入することでまちが生き物のように見えてくる系の提案がいくつかあり、ディベロッパーによる大規模再開発的な方法のアンチテーゼとして、この手の案は実際にしかるべきところにプレゼンしてみて欲しいと思いました。

票が集まった竹居案や井上案は、卒業設計らしいフォーマットに則って現代の社会からストーリーをうまく紡いだ提案であったと思いますが、総じてどの学生もストーリーづくりに終始してしまった感があり、最後に司会の佐々木さんがおっしゃっていたように、建築的にはもっともっと掘り下げられるべき内容があったかなと思います。

例年掘下げた結果として、学生本人も価値がよく分からなくなっているものを審査員が意味を見出して位置づけるというのが八雲賞の価値であったのですが、本年度に限ってはなかなかそこまで至らないという結果となっています。

一方で新任の能作先生や伊藤先生が見守ってくださっていることもあり、今後の都立大設計教育の行方がどうなっていくのか、明るい材料が見え始めた中で、僕自身が非常勤の任期満了となり、6年にわたって運営をしてきた八雲賞は次の代に引き継ぐという形となります。この間お世話になりました佐々木さんをはじめ、OB審査員のみなさんに改めて感謝申し上げます。ありがとうございました。


2022-02-15