首都大住宅設計課題2019

3年目の首都大住宅設計課題が本年度も無事終了。
今年は猪熊さん、宮内さんに加え吉田昌平さんというほぼ同年代の4人によるスタジオ指導で、課題は引き続き名作住宅に学び、その学びから住宅設計を行うというもの。

今年の10選は下記の通り。
去年からの引継ぎが
・坂本一成/HOUSE F ・ル・コルビュジェ/ショーダン邸
・アドルフ・ロース/ミュラー邸 ・レム・コールハース/ダラヴァ邸
・ルイス・バラガン/バラガン邸

新たに加わったのが
・西沢立衛/森山邸 ・ジェフリー・バワ/No.11自邸
・H&deM/ゲーツギャラリー ・島田陽/川西の住居 ・内藤廣/住居No.1 共生住居(自邸)

今年は人数を振り分けずに好きなものを選んでいいと言った結果、川西やミュラー邸、バラガン邸、ダラヴァ邸に集中し、ゲーツや内藤自邸が少ないという結果に。

新たに加わったうち結果としてうまくいったのは、バワ自邸内藤自邸だけで、それ以外はイマイチぱっとせず。しかし母数が違うので判断が難しい。

今年はレーダーチャート式課題評価をはじめてから初の首都大の課題ですが(もう5年くらいチャート評価やってる気がしてるけどまだ半年という事実)、今思うと、参照がはっきりある状態から設計をスタートさせるという方法が、そもそもレーダーチャートの一番目の項目であり、チャートをつくるきっかけにもなったと思います。

今年は課題発表時に最終評価はこうした評価軸に沿って行いますと公表しました。

本課題は以下の6項目について5段階で評価する
・着想力:参照住宅や、敷地条件から何を観察したか。観察したことからどんな仮説を立てたか。
・探求力:立てた仮説をどれだけ掘り下げたか。どのくらいスタディを積み重ねられたか。
・構築力:積み重ねたスタディをひとつの形に自分なりにまとめることができたか。
・図面力:自分の設計したものを図面にきちんと翻訳し、伝えることができているか。
・表現力:模型やプレゼンにおいて、設計したものに相応しい方法で表現できているか。
・言語力:自分の案をきちんと自分の言葉で端的に魅力を伝えられているか。

スタディはこの円環をぐるぐる回りながら行うことと指導し
さらにはエスキスチャートなるものを新たに作成して、エスキス時に何が今足りてないのかを補うという試み。

毎年2月くらいになると先生たちで集まって、今年の参照住宅を何にするかなど、飲みながら議論をするのが楽しみになっているのだけど、そこで出たのがこのエスキスチャートのアイディア。

観察して着想してスタディし、図面を書いて形にしそれを批評するというのがスタディの流れの基本であり、この円環の循環に基づいてスタディできているかを確認できる。

教えていてよく思ったのは、スタディにおいて、中途半端に先が見通せる頭の良さが一番の大敵であるということ。スタディ中は愚直になるべき

エスキスをしてからエスキスチャートを書いてみると、エスキス時のアウトプットとして不十分に見える学生も、今生みの苦しみの中にいるだけで、やっていることは間違っていなかったり、できているように見えてそもそもの観察力が足りなかったり、明らかにできるのは大変良かった。

最終評価も4人の先生が同じレーダーチャートで評価する方式を取った。最初のうちは差がつかないなあと言っていた先生もいたが、ふたを開けてみると、4人の先生の評価はそこまで大きくぶれない結果となりましたが、この辺りは改めて反省会ができると有難いと思います。

今年の学年は教えていて、他の学生のエスキスもよく聞くし、なんなら意見をしたりと非常に頼もしい子たちが多かったこともあり、例年のポスターセッションと少し変えて、全員で順番に発表を聞いた後、先生も学生もそれぞれが詳しく学生に質疑するという形式。盛り上がって大変よかった。

最終8選のうち上位4人が富永スタジオという出来過ぎな結果になったのは、そもそもの評価軸を僕が設定していることが要因な気がするが、選ばれた8案はどれも素晴らしかったし、そうでない案も凡庸な案がほぼ皆無というのがこの参照課題の面白いところ。
今年は参照住宅という入口を設定して、評価軸という出口も設定したが、それでも本当に多様に展開するところに建築の楽しさが表れているように思う。


結果、内藤自邸の学びから、壁をたてることで空間をつなぐことができるのかという方法に愚直に挑んだ富士君(写真手前)と、バラガン邸は壁を立てることでフレーミングしているという仮説を立て、周辺をフレーミングする立面を先に設計してその壁の間に平面を差し込んでいくという方法に挑んだ天野さん(写真奥)の決選投票になり、最後は熱量の差もあって、富士君を住宅課題賞出展者に選定。4人だと票が割れる心配があったので二人の指導者の僕は投票を辞退しました。

学生にも1案これだと思う案を選んでもらって投票してもらったが、やはり学生の評価と先生の評価は大きくズレました。だいたいプレゼンや模型がよくできている案に票が集まっていたのは予想通りだったが、何がいいものかを判断できない中で設計をやるというのは結構大変なことだと思う。次回は学生にもチャート採点をさせてみようかと思う。

打ち上げで富永スタジオでよかったと学生が口をそろえて言ってくれたので
横で半泣きになってたけどw、彼らが言語化してくれた説明によると、
僕がやっているエスキスは
・やってきたことを否定しないで面白がる
・明確なゴールではなく、ふわっとした方向性を示唆する
・具体的なスタディ方法を指示する

ということらしく、確かにその通りなので、よく見ているなあと感心しました。
ワンピースの宴的な大団円感があって至福の瞬間。

総評では、自分の好きなものを早く見つけて、その中心からその周縁を広げようとする人間になって欲しいという話と、
僕がこの評価方法を啓蒙しているのは、このチャートの円環をぐるぐるすることがそもそも“学ぶ”ということであり、その姿勢を身に着けられれば、次の設計課題でも、あるいはこの先の人生で答えのない問いに対峙したときにも(例としてどこで結婚式をあげるかを挙げたw)、観察して着想して探求して翻訳して表現して言語化して、そこにある失敗をまた観察して(以下略)のサイクルを繰り返せばいいということを伝えたいからだという話をしました。

エスキスで大事なのは最低限失敗を明らかにすることで、ダメそうなのでやめましたみたいなのが一番困る。失敗の量の先にかろうじて答えに近い何かが見えるのだと。

“学び”が分かっていれば、人と小さな違いを比べられるような就活の場に立つ必要もないし、満員電車に毎日揺られてうんざりみたいな人生から、もっともっと自由になれる方法にたどり着けるよと。

何より僕がこれにこだわっているのは、“学び”が分かっていれば、先生と学生の間には経験量の差しかなくなり、そこをスタートにしないと、本当はたくさんの失敗の上に成り立っている、現場レベルで起こっているなんとなくこうすれば正解というコモディティ化を、教育レベルでも避けられず、建築学や建築家は(もしかすると他の多くの科学も)完全に終了してしまう。これをなんとか避けないと、と最近よく考えているからです。

いや、本当は初等教育でやって欲しいんだが
本当に教育なんとかしろ。

とは言え、設計を教えるにあたって、次なる課題も個人的には見えていて
これまでは観察力と着想力を養うことに重点をおいてきたけど
この先は自己評価力を養うことと、愚直にスタディする方法を養うことだと思っているので
来年もチャレンジできるといいなと思います。

今年は本当に学生が他者にものすごく興味を持った奇跡の学年なので
1年半後、本当に楽しみにしています。


2019-05-29