路地の反転/ House with alley terrace

私は都内の建てこんだ細長い路地状敷地の奥に建つ小さな木造平屋である。昭和40年代に現在の中の人とは別の人に建てられた。現在隣には母屋、奥に倉庫などが居るが、前の路地を挟んだ北側に別のお宅が接しているため路地には開かず、一方そのおかげで私は壊されずにいる。再建築不可というらしい。従って私の前の路地はほぼ専有地であるのに(かつ地価も高いのに!)も関わらず見捨てられ、中の人の活動は私の中に閉じ込められている。しかし、この路地を歩いて家に帰ってくる体験は、この場所に属した唯一無二のものであろうと私は想像する。どうにかして、路地に直接開くことなく、路地を私の一部のようにすることができないだろうか。
考えた結果、元々路地の入口寄りにあった玄関(現浴室部分)を、隣接した母屋と同じ敷地奥に集約し、母屋との間を一部減築するような形で屋根のある半外部空間とし、路地を私の中に貫通させることとなった。こうして生まれた”路地テラス”は母屋との間の中間領域的な通り土間にもなるし、倉庫として使われている路地の北側の広がりにも視線が抜ける。なにより南北に抜いたことで、特に夏場はよく風が抜けるようになった。
過半未満の修繕であることもあって、屋根は南半分だけ天井を撤去して古い丸太梁を表しにしつつ、野地板を長尺の八溝杉の厚板(30mm)に葺き替えてもらった。この厚みによって準防火地域の延焼ラインでも杉を表しにできるのと、片持ちで建築面積に入らない範囲で軒を伸ばすことができる。こうして路地テラスとL字につながる南側に雨がかりの少ないヒノキの”裏路地テラス”が生まれ、建てこんだ敷地でも床のヒノキと軒のスギの間で太陽の光が増幅し、私の中は大変明るくなった。路地の角、南東に視線が抜ける角には実質的に玄関を兼ねるキッチンが置かれ、中の人が半屋外で食べたり飲んだりできるようになった。
また構造補強として、多摩産の杉垂木材を束ねた壁が点在して置かれ、土間の延長となる部屋1から雁行しながら繰り返されることで、スギの壁が人を私の奥へと導くような構成となった。中の人は2人しかいないが、引戸で仕切れば個室が4つとなり、居場所があちこちに生まれる。いずれも外に人が出にくくなった世界だから、選ばれたことのように思う。
結果として私自身は内部の面積が小さくなった。しかし路地を反転させること生まれる中の人の体験や意識が、私を超えて敷地全体やその外の隙間へと広がっていくと大変嬉しい。


設計期間:2020年11月-2021年7月
見積期間:2021年9月-11月
施工期間:2021年12月-2022年7月(解体含む)

所在地 :東京都
主用途 :専用住宅
施 工 :前澤工務店
階 数 :1階
延床面積:61.47㎡(改修部分)
構 造 :木造在来
竣 工 :2022年7月
写 真 :中山保寛