段畑の家 / house of terraced field

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【背景】
農業に従事する人口は年々減り続け、1980年代に40%あった国内の全人口に対する農業就業人口は2009年には2.2%まで落ち込んでいます。(農業の所得がメインの世帯まで絞り込むとわずか0.8%の世帯がこの国の台所を支えている)加えて65歳以上の高齢者が61%という現状にあります。

一方で若者をはじめ潜在的に農業に対する関心は高まっており、貸し農園は常に予約待ち、週末体験農業もビジネスとして成功を収めています。(潜在的な農業人口は300万世帯とも言われている)

この状況に加え、ネット環境の向上でどこでも仕事ができるようになった中、菜園となる広い庭を求めて、少し遠い郊外へ新居を求める動きも出てきています。しかし、整っていない町へ越すというのはなかなかハードルが高い。
そこで、今後余ってきそうな開発から50年を迎えるニュータウンに着目し、屋根を利用して野菜を育てられるような木造住宅を設計するという提案です。

ダイアグラム

【設計趣旨】
元来平地の少ない日本では斜地でも農業ができるよう棚田や段畑の技術が発展してきたワケですが、この技術を住宅に応用していきます。
こういう住宅を設計しようとすると何が起こるか。まず日差しをめいいっぱい受けたいので、屋根勾配が南下がりになります。また、本来屋根は雨をしのぐものですが、この住宅の屋根は雨を吸収する必要があります。


木造でこれをやると、どうしても雨は漏ります。
そこで浴室、玄関、土間、テラスといった万が一雨が漏ってもそれほど困らない空間を、屋根直下にレイアウトしてそこを最終的な防水ラインとしました。

設計手順としてはまず、畑に必要なウネの幅から平面モジュールが決まります。

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このウネモジュールごとに屋根勾配を決めると、勾配によって土の深さが変わり、育てられる野菜が変わります。水耕栽培の技術を導入して栽培カレンダーをつくりつつ、植物のレイアウトを決め、屋根下空間の必要天井高にフィードバックして建物の断面を決定しています。

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一番屋根の低い土間。基本的に採光は東西を主とし、細かく分割されたウネごとに梁が飛んで、それを受ける柱がところどころ落ちてきます。右上には屋上に出られるテラスが見えていて、窓を開けると風が抜けます。

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一番奥側のリビングもウネ3スパン分を利用して、東西に抜けた空間です。右上に玄関が見えており、正面上には主寝室が見えています。

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屋根中央には外から上がれる階段が畑を二分していて、一年ごとに左右で植えるものを変えることで連作障害を避けることができます。ところどころ立ち上がっているのが室内に直結するテラスにかかる庇です。冬の日差しをなるべく室内に取り込むよう、軒裏に反射する素材が貼られています。

クロと呼ばれる畑の立ち上がりはコンクリートブロックでできています。基本的に水は畝を部分的に横断してゆっくり下に流れていきますが、雨量が多い場合は短手に排水されます。

野菜の収穫量をシュミレートするとおおよそ5人が一年に食べる野菜が収穫できる計算です。

【将来像】
想定された敷地は南向き斜面であるので、50年前の住宅群が徐々に更新されていくと、住宅地全体が大きな段畑に見えてきます。
また農地併設住宅は、専業主婦(主夫)に+αの経済効果とやりがいを与えることから、少子化問題の解決にもつながるはずだと考えました。

タマホームデザインコンペティション2013「住まいの新しいベーシック」入選案