【林業】林業と建築を考える旅⑤ ~マンションリフォームで無垢材を使う~

【林業】林業と建築を考える旅① 〜何のために木を使うのか〜
【林業】林業と建築を考える旅② ~吉野の森から学ぶこと~
【林業】林業と建築を考える旅③ ~7代前の先代に生かされている町~
【林業】林業と建築を考える旅④ ~製材所から流通を考え直す~

リフォーム案件で無垢の杉をいかに使うか。いくつか乗り越えないといけない問題がありました。

まず強度的な問題

杉は檜や松系の針葉樹と比較すると、柔らかくて強度が出しにくい。(沖倉製材所には木のヤング係数を測定する機械もありましたが)

とはいえ、マンションリフォームでは構造的な強度が必要なくハードルが俄然低いというメリットがあります。

木材利用というとなぜか構造材に使うことしか頭にないのは日本の不思議なところです。

ドイツの製材品の内訳をみると構造材は35%であり、そのほかのサッシや家具、内装材の利用が多いことがよくわかります。

何か壁と家具の中間のような作り方ができないものか。

計画的にロフトをつくることにもなったので、量をつかうことも考え、

スイスなどに多いマッシブホルツ構法にたどり着きました。

木材を壁状に束ねる構法です。


*モックアップとして制作した20角の材によるベンチ。

横に重ねていくのがいいのか、縦に積み上げるのがいいのか、モックアップを作ったりしながら検証を重ねます。

縮むこと、短い工期の中での施工性などを検証した結果、積み上げていく方法で、ロフトの荷重も支えられそうとの話になり
木材を積み上げることで壁のような家具のような間仕切りをつくる結論になりました。

次にコストに直結する材寸の問題

壁の厚みを考えたら45じゃさすがにちょっと心許ないし、断熱を当てにしてるわけじゃないので90じゃ厚すぎる
ドーマー窓の家の構造設計を担当してくれた田村さんにもアドバイスをもらいつつ、厚みは60に決定。

残るは壁の高さ方向に相当する材の幅。
施工費を考えたら、できる限り材を大きくした方が楽だが、ここからはコストとの兼ね合い。

沖倉さんと相談して、正角材を取ろうとするとどうしても芯持ち材になるようで、歩留まりから考えた結果、角材よりも扁平材の方が安くなるということが分かりました。

ちなみに大学でも芯持ち材の方が強く狂いも少ないと習うんですが、
ドイツの林業を見ると、大径材が多いこともあってか、強度の求められる材にはもっぱら芯去り材を使わなければいけないという決まりがあります(背割り文化もあると思いますが)。
今後大径材が増えていく中、芯去り材より芯持ち材という理解には少し疑問が残っています。


*歩留まりの中から決まってきた材寸。

結果、使う材は60x45の材にしました。いわゆる屋根の垂木に使う寸法の材です。
日本の木材には慣習的に材寸ごとに用途がきまっているのが面白いところ。

仕様は沖倉さんにサンプル材を何種類も送ってもらって施主との話し合いの結果、子どもが節を嫌がるだろうとのこともあって上小節としました。

しかし後になってみると、材の切り出しと、積み上げた時に見えてくる方向を考えると、実は節が出てくるのは積み重ねられて隠れてしまう部分がほとんどであって、上小節でなくてもよかったかもという話もありました。(図参照)


*概算による壁単位の施工費比較

使う木材の総量は4㎥弱。プレカットも込みで120万程度です。これが高いのか安いのか。
実際に下地をLGSで組んで、仕上げに木材を張る構法との比較で考えました。
そうするとむしろ30%くらい下がっている。これは下地と仕上げが一緒だからできることでもあります。(図参照)

そして法的な問題

今回は元のマンションが耐火建築であって内装制限がかからない条件であったので、不燃の問題はありませんでした。

しかし木が縮むことも考えて、天井とは取り合わないような選択をしました。言ってみたら床にしっかりと固定された大きな家具状態

そもそも木は塊にしてしまうとかなり燃えにくいのですが、法的にも家具扱いにすることで逃れられるケースがたくさん出るかなと思います。

法規制から逃れた状態で木を使うというのは大事な方法です。
でないと木材から水分を全部抜いたので燃えません的な不燃材をつかうことになり、
何のために木を使うのか、また手段が目的を超えてしまいます

それと運搬の問題

普通のマンションのエレベーターに入るのは長さ2200-2300くらいまで。階段で回せる材の長さまで考えて設計をする必要がありました。

結果、短い材でなるべく角を増やすような設計になる。
これも結果としてできたものが家具に近づいた理由の一つと思います。

そして一番大事なのが施主の理解

木を使いたいというリクエストとはいえ、これまで普通のマンションにお住まいだったクライアント。
木のメリットデメリットをしっかり伝える必要がありました。


*実際に使う木材のサンプル

香り質感があって、吸湿性、断熱性が高い代わりに、縮んだり傷がつきやすかったり狂ったりする。

生き物でできてるので了承してください(笑)と。

その代り子どもたちには東京の多摩産の杉を使ってCO2の固定や杉花粉の減少には一役買ったと自慢してくださいと(笑)

なんとか図面を工務店に投げて見積もり調整も終わって工事への目途がつきました。

それとは別にひたすら施主支給となる材の発注リスト管理。1割分余剰を見積りつつ発注。これがなかなか骨の折れる仕事でした。

次回でこの旅も本当に最終回。いよいよ着工です。