Hiroki Tominaga – Atelier

【林業】林業と建築を考える旅② ~吉野の森から学ぶこと~

【林業】林業と建築を考える旅① 〜何のために木を使うのか〜

大抵の林業は古くても江戸時代に始まったものが多いのですが、奈良県の南半分を占める吉野郡では今から500年以上前の室町時代から人工林による育成林業が始まっており、これは日本はもちろん世界でも最古ではないかと言われています。

安土桃山時代には秀吉に領有され、大阪城などの築城時に木材が大量に出されるようになり、その後江戸時代中期には酒樽に使う樽丸材の生産が増え、時間と共に銘木としての吉野材の価値が高まっていきました。

材齢50年程度での短伐期の皆伐をせずに200年を超える長伐期の材を多間伐(=択伐)で出す林業を続けてきたことで、山には大径木が残り、戦後の成長期を経てバブル期には吉野材といえば高品質な大径材として、丸太1本に数千万の値が付くことも少なくなかったと言います。


*村野藤吾設計の橿原神宮駅

奈良から電車で南に下ること30分。村野藤吾設計の橿原神宮という駅に着きます。案内頂いたのは清光林業の岡橋清隆さん。岡橋さんは山の深い吉野の地において、ヘリでしか材を下す方法がなくなっていた時期に、ご兄弟で険しい吉野の山でもできる作業道の整備に取り組むことで、経費の圧迫していた林業の状況を改善してきました。つくってきた作業道はなんと80キロ近くにもなるという、山持ちでありながら山守であるという森の先生です。

自伐型林業の活動でもこれから林業を始めようという若い林家の人に、作業道の作り方を指南してくれています。ドイツでいうところの森林官(フォレスター)にも近い森のプロです。

ちょっと話がそれますがドイツにはこのフォレスターという国家資格が存在します。森林の更新から保育・伐倒・集材・作業道づくりからマーケティングまでを学んだ森のプロです。それぞれの森林に必ず配属され、法律的な権限を持ち、公務員的な立場で森を管理します。

このフォレスターが、集材から丸太が積まれるまでの段階で、材種・形質・等級・材積などを計測してデータベース化して消費者側に伝えるシステムがしっかりあることがドイツの林業の強みです。日本でも森林総合監理士という資格がここ数年で始まっていますが、ドイツの資格取得の大変さや権限の大きさと比較すると簡易な制度と言わざるを得ず、こうした流通の近代化も残念ながら整っていないのが現状です。


 *間伐の跡も見られる材齢40年の杉林

閑話休題。岡橋さんの運転する4WDが橿原から30分ほど走ったところで、ギアを四駆に入れるとそこから材を切り出すためにつくられた巾2.5mの作業道が始まります。

この細くてくねくねした道をかなりのスピードで器用に登っていくと、普段山登りで見る森の風景とは全然違う、はじめてまともに見る人工林の風景に包まれました。

密集して生えるものすごく細い杉林。この辺りがだいたい樹齢40年。

一般的には植林は2m前後の間隔で苗木を植えますが、間隔を1m前後にして3~4倍の本数密集させて植樹し、栄養過多にならないよう細く長い時間をかけて育てることで木目の細かい木にするのが吉野流。

密植によって木々が風に揺れただけで枝どうしがぶつかって枝が落ち、手間が要らないのも利点だそうです。

実際に割りばしを折ってみるとよく分かるのですが粗目のものと比較すると目の細かい吉野杉のものとでは、強度が全然違ってきます

こうした岡橋さんの解説を聞きながら、4WDはさらにどんどん作業道を登っていきました。


 *樹齢の違う森の境界

上がった先に待っていたのが樹齢40年の細い木と、樹齢180年の大木群が隣接する風景。

人の手による風景ですが、あまりの神々しさに思わず息を飲みます。

吉野流のこの長伐期多間伐の方法について補足的に説明すると、木が成長して大きくなってくるのに応じ間伐が必要になります。

最低でも10年に1度。たとえば材積の2割を間伐します。

材齢20-50年の頃が一番間伐が必要になるわけですが、このくらいの細さだとまだ製材には使えない(特に吉野材は細い)。

いわゆる僕らが知っている「間伐材」というやつです。作業道をつくるための杭になったり、チップにされてバイオマス発電に回ります。

10年たつとその間に材が太って材の蓄積量は回復しているので、また2割間伐します。

木が太ってくると、需要に応じて、かつ山の環境を変えすぎないように材を出していき(=択抜)、最終的にこのように樹齢200年近い大径木のまばらに残る森にはところどころ光が落ちる神々しい風景になります。

この木と木の間にたくさんの時間と先人たちの手が入っている。そのことを思うとちょっと泣きそうにすらなります。


 *光の落ち方が神々しい樹齢180年の森とその奥に密集する樹齢40年の森

一方ニュージーランドのように短伐期皆伐で施業を続けてきた地域も世界にはあります。

短伐期皆伐には作業道整備などの手間もいらず、大型の機械を所有している大規模林家であれば、すぐに採算が取れる回転のいい方法ではあります。

ニュージーランドでは除草剤の使用や育ちの早くなる品種改良などの工夫で自然の力を抑えていることに加え、日本と比べて植樹後の下刈の手間が少ないので日本の生産性の2-3倍近くになります。

実は日本の林業が衰退したのは、輸入自由化で材価が下がったところに、この下刈りの経費が嵩んだことが大きな原因と言われています。

基本どの国でも更新(植林)にはものすごい手間と経費がかかるので、森林更新をいかに自然任せにできるかというのが、今林業に求められていることであり、そのためには長伐期多間伐の方が対応力があります。


 *短伐期皆伐と長伐期多間伐の収材量比較(大貫・田口「消極的長伐期から積極的長伐期へ」『現代林業』2007年8月号を元に作成)

オーストリアやドイツでは(州によって違いますが)2ha以上の皆伐は禁止されており、木材の成長量と生産量がきちんと管理されています。

これがとても大事なことで、長伐期多間伐のロジックは、木材の成長量が木材の生産量を上回らなければ、半永久的に材は増え続けるということにあります。

また大径木ほど歩留まりがよくなるのも大きな利点で、上の表を見ても2回の50年短伐期皆伐と100年長伐期多間伐では製材に出せる量が単純計算で倍近く違うのが分かります。

また、ある製材所のデータによると、樹齢が高いほど杉のヤング係数が高いというデータもあります。

今後これまでと同様に大径木の方が材単価が上がることはさほど期待できない状況になるとしても、長伐期多間伐の林業の優位性が分かると思います。

というのが吉野をやり方を元にしたこれからの林業が目指すべき供給側のロジックです。

あとはこれをどう既存の流通に乗せるか、あるいは新しい流通をつくるか、という話です。短伐期皆伐の方が流通に乗せやすいことは説明するまでもないと思います。

上の表を単純に需要側から見返すと、CLTや集成材や合板の使用を増やしていくことは、大径木の価値を切り離し、短伐期皆伐を助長することになるのは分かってもらえるかと思います。


 *主要林業国の林業基本指標(「日本林業はよみがえる/梶山恵司」より)

上記2006年の統計によるとスウェーデンやオーストリアでは木材生産量の成長量に対する割合が90%近くあるのに対し日本は25%です。

持続可能な森林というのはこれをなるべく10割に近づけることです。しかも現在日本の木材生産を支えているほとんどが皆伐なので、数字以上に全く手のつかない材積が増え続けてる山があることになります。

この問題に対して山の環境を保持しつつ生産量をいかに増やすか、をきちんと考えないといけない。

既存の林業体制と流通の関係では厳しく、自伐型林業のような小さな林業と、その周辺で長伐期多間伐を助ける無垢材や間伐材の需要を組合せることが求められてくるワケです。

とは言えそれが簡単ではないことは吉野の製材所の現状を見ても分かります。

次回は吉野の山を下りてその製材所を訪ねます。山と生活をつなぐ製材所で今どんなことが起きているか、現状を見て回ります。

③に続きます